北朝鮮によるミサイル発射実験
北朝鮮によるミサイル発射実験(きたちょうせんによるミサイルはっしゃじっけん)は、朝鮮民主主義人民共和国 (北朝鮮) が行った大規模な弾道ミサイル発射の一覧。
概要[編集]
準中距離弾道ミサイルのノドンやスカッドERや北極星2号、中距離弾道ミサイルのムスダンや火星12、大陸間弾道ミサイルの火星14や火星15、潜水艦発射弾道ミサイルの北極星1号の発射実験は国際機関へ通告せずに行われる。
一方、大陸間弾道ミサイルのプロトタイプとなるテポドン2号を改良したローンチ・ヴィークルとしての性格を持つ銀河2号や銀河3号や光明星の発射実験の場合は、2009年の発射以降、事前に国際海事機関(IMO)や国際民間航空機関 (ICAO) に発射を通告している。北朝鮮は、人工衛星搭載の打ち上げロケット発射は純粋な平和目的の宇宙開発であると主張している。
これに対し、日本、アメリカ、韓国、国際連合安全保障理事会等は、仮に人工衛星搭載でも、発射は事実上の弾道ミサイル発射実験と看做している。
国際連合安全保障理事会決議では、弾頭部に人工衛星を搭載したロケットであるか否かにかかわらず、北朝鮮が弾道ミサイル技術を利用した飛翔体の発射を実施しないよう要求しているものの、これが守られていることはない。
米議会調査局(CRS)は2020年7月14日に公表した報告書で、「北朝鮮による近年のミサイル発射実験は、域内の弾道ミサイル防衛(BMD)システムを突破し、核弾頭が搭載可能なミサイルの製造に躍起になっていることを示している」と指摘した[1]。
日本の防衛省が7月14日に公表した2020年版防衛白書は、「近年、北朝鮮はミサイル関連技術の高度化を図ってきており、2019年5月以降、発射を繰り返している新型と推定される3種類の短距離弾道ミサイルは、固体燃料を使用して通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔するといった特徴があり、発射の兆候把握や早期探知を困難にさせることなどを通じて、ミサイル防衛網を突破することを企図していると考えられる。このような高度化された技術がより射程の長いミサイルに応用されることも懸念される」と指摘。「北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と記述した[2]。
年譜[編集]
No. | 年月日 | 型 | 飛翔エリア | 予告 | 北朝鮮の主張 | 衛星名 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1998年8月31日 | テポドン1号 | 秋田県沖 | なし | 衛星打ち上げ | 光明星1号 |
2 | 2009年4月5日 | 銀河2号 | 秋田県・岩手県 | あり | 衛星打ち上げ | 光明星2号 |
3 | 2012年12月12日 | 銀河3号 | 沖縄県沖 | あり | 衛星打ち上げ | 光明星3号 |
4 | 2016年2月7日 | 光明星1号(銀河3号) | 沖縄県 | あり | 衛星打ち上げ | 光明星4号 |
5 | 2017年8月29日 | 火星12号 | 北海道沖 | なし | ミサイル発射 | 該当なし |
6 | 2017年9月15日 | 火星12号 | 北海道沖 | なし | ミサイル発射 | 該当なし |
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (1993年) - 日本海に向けた初の飛翔体。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (1998年) - 光明星1号も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2006年) - 北朝鮮の核実験 (2006年)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2009年) - 北朝鮮の核実験 (2009年)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2012年) - 光明星3号1号機と光明星3号2号機を参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2013年)
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2014年)
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2016年) - 北朝鮮の核実験 (2016年1月)、北朝鮮の核実験 (2016年9月)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2017年) - 火星12、火星14、火星15、北朝鮮によるミサイル発射実験 (2017年8月)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2018年)[3] - 日本に向けた飛行は行われていない。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2019年)[4][5][6][7][8][9][10] - 1年間の重大実験が2回と打ち上げが13回、計15回に及んだ。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2020年)[11][12][13] - 1年間の打ち上げが計5回に及んだ。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2021年) - 1年間の打ち上げが計8回に及んだ。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2022年) - 3月24日現在11度に及んでいる。ロケット砲を除く。3月24日はEEZ内へのミサイル落下を実行した[14]。
敵基地攻撃能力向上に向けた取り組み[編集]
国際連合報告者は、北朝鮮は物資不足で飢餓の恐れがあるなか、ミサイル発射実験を行っていると報告した[15]。北朝鮮当局は、2021年4月、国民に対し「苦難の行軍」を実施すると公表し、1990年代後半の飢餓の再来を予告している[16]。
2021年9月11日、12日、北朝鮮は2度にわたり日本海に向けて巡航ミサイルを発射した[17]。また、同月15日12時32分頃と12時37分頃[18]、有蓋貨車から[19]日本海に向けて弾道ミサイルを2発発射した[20][21]。
これについて、岸田文雄前政調会長は9月13日に外交・安全保障政策について記者会見し、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」の保有について「有力な選択肢」と発言[22]、内閣総理大臣就任後も、北朝鮮のミサイル基地を先制攻撃して無力化する能力の向上に前向きな姿勢をみせた[23]。高市早苗もまた、そのための法整備を急ぎたい考えを示した[24][注釈 1]。こうした流れを受けて、11月12日、日本の防衛省では「防衛力強化加速会議」についての会合が持たれた[注釈 2]。また、2021年10月17日、アメリカ国防総省の情報機関は、北朝鮮の軍事力に関する報告書を発表し、北朝鮮が2021年から2022年にかけて長距離弾道ミサイルの発射実験を再開する可能性があるとして、警戒感を示した[26]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ “「北朝鮮、弾道ミサイル防衛網突破の核ミサイル製造に躍起」米議会調査局が報告書”. 高橋浩祐. Yahoo!ニュース. 2020年7月18日閲覧。
- ^ “「北朝鮮、弾道ミサイル防衛網突破の核ミサイル製造に躍起」米議会調査局が報告書”. 高橋浩祐. Yahoo!ニュース. 2020年7月18日閲覧。
- ^ “North Korea Says It Has Tested ‘Ultramodern Tactical Weapon’”. www.nytimes.com (2018年11月15日). 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮はことし7月25日以降、短距離弾道ミサイルとみられる飛しょう体の発射を繰り返していて”. www3.nhk.or.jp (2019年9月11日). 2019年9月11日閲覧。
- ^ “北朝鮮ICBM施設で動き、韓国は「ミサイル関連活動」と判断 ロイター”. ロイター (2019年3月16日). 2019年9月11日閲覧。
- ^ “北朝鮮が弾道ミサイル発射、EEZ内には落下せず 5月以降13回目”. www.sankei.com. 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮から弾道ミサイル発射か EEZ外に落下と推定 政府”. www3.nhk.or.jp. 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮の弾道ミサイル”. www.mod.go.jp (2018年11月15日). 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮の重大実験 日本政府「弾道ミサイル関連か」 警戒万全に”. www3.nhk.or.jp (2019年12月9日). 2019年12月9日閲覧。
- ^ “北朝鮮、再び「重大な試験した」発表 新型のミサイルか”. 朝日新聞デジタル. (2019年12月15日) 2019年12月15日閲覧。
- ^ “北朝鮮 日本海に向けて飛しょう体2発を発射 韓国軍”. www3.nhk.or.jp. NHK NEWS WEB (2020年3月2日). 2020年3月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮が飛翔体3発、韓国軍発表 EEZ外の日本海落下”. www.nikkei.com. 日本経済新聞. 2020年3月9日閲覧。
- ^ “「北朝鮮、弾道ミサイル防衛網突破の核ミサイル製造に躍起」米議会調査局が報告書”. 高橋浩祐. Yahoo!ニュース. 2020年7月18日閲覧。
- ^ “ミサイル落下予測情報”. www7.kaiho.mlit.go.jp. 海上保安庁 (2022年3月24日). 2022年3月24日閲覧。
- ^ NHK NEWS WEB (2021年10月23日). “国連報告者 “北朝鮮 物資不足で飢餓のおそれ””. 日本放送協会 2021年11月5日閲覧。
- ^ 李泰炅 (2021年8月10日). “想像以上の苦境? 北朝鮮が再び「苦難の行軍」を決めたのはなぜか”. JBプレス 2021年11月5日閲覧。
- ^ 讀賣新聞 (2021年9月14日). “北巡航ミサイル、高性能なら難しい探知・迎撃…低空を地形に沿って進む可能性”. 讀賣新聞社 2021年9月18日閲覧。
- ^ “お知らせ(続報)”. 防衛省. (2021年9月15日) 2021年9月18日閲覧。
- ^ . 朝鮮中央放送. (2021年9月16日). https://youtube.com/watch?v=RpGxtCKy19Q&feature=youtu.be+2021年9月16日閲覧。
- ^ 防衛省大臣官房広報課 (2021年9月15日). “防衛大臣臨時記者会見”. 防衛省 2021年9月18日閲覧。
- ^ 日本経済新聞 (2021年9月15日). “北朝鮮が弾道ミサイル2発発射 日本のEEZ外落下と推定”. 日本経済新聞社 2021年9月18日閲覧。
- ^ 東京新聞 (2021年9月13日). “岸田文雄氏 敵基地攻撃能力「有力な選択肢だ」 中期防見直しで「防衛費増」にも意欲”. 東京新聞社 2021年11月5日閲覧。
- ^ 時事ドットコム (2021年10月19日). “岸田首相、敵基地攻撃能力保有も選択肢 北朝鮮ミサイル技術に危機感”. 時事通信社 2021年11月5日閲覧。
- ^ 産経ニュース (2021年9月13日). “高市氏「敵基地の早期無力化を」 北ミサイルに懸念”. 産経新聞社 2021年11月5日閲覧。
- ^ a b 香田(2018)pp.54-55
- ^ NHK (2021年10月17日). ““北朝鮮が来年にかけ長距離弾道ミサイル再開の可能性”米機関”. 日本放送協会 2021年11月5日閲覧。
参考文献 [編集]
- 香田洋二『北朝鮮がアメリカと戦争する日』幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2017年12月。ISBN 978-4-344-98479-0。
- 萩原遼『金正日 隠された戦争 金日成の死と大量餓死の謎を解く』文藝春秋〈文春文庫〉、2006年11月(原著2004年)。ISBN 4-16-726007-7。
関連項目[編集]
- 朝鮮人民軍
- 北朝鮮核問題
- 朝鮮民主主義人民共和国の大量破壊兵器
- 26号工場・351号工場 - 慈江道江界市に所在するミサイル製造工場
- 新五里 - 戦略国際問題研究所(CSIS)が2019年1月21日に、北朝鮮が未公表のミサイル基地があることを特定。
- 舞坪里 - 慈江道前川郡の同行政区から2017年7月にICBM「火星14」が発射された。
- 山陰洞 - ミサイル工場で物資運送用車両が活動。
外部リンク[編集]
- 北朝鮮の主なミサイル基地 (asahi.com)
- 地図蔵「北朝鮮」