津波注意報

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日本気象庁が発表する津波の情報
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津波注意報(つなみちゅういほう)とは、地震の発生により気象庁から発表される津波に関する注意報で、20 cm以上1 m以下の津波が予想される場合(発表基準)において、予想される津波の高さ「1 m」として発表される[1]。予想される津波の高さが20 cm未満であるときは津波注意報ではなく「津波予報(若干の海面変動)」が発表される[1]

概説[ソースを編集]

気象庁が発表する津波に関する注意報・警報には他に津波警報大津波警報がある。津波注意報は予想される津波の高さが20 cm以上1 m以下の津波である場合において予想される津波の高さ「1 m」として発表される[1](M8を超える巨大地震の場合には正確な地震の規模がわかるまで表記されない[1])。

予想される津波の高さが1 mを超える場合には津波注意報ではなく津波警報や大津波警報が発表される。予想される津波の高さが1 mを超え3 m以下である場合には予想される津波の高さ「3 m」として津波警報が発表される[1](M8を超える巨大地震の場合には正確な地震の規模がわかるまで「高い」と表記される[1])。さらに予想される津波の高さが3 mを超える場合においては大津波警報が発表される[1](数値で発表される場合、5 m、10 m、10 m超に区分されるが、M8を超える巨大地震の場合には正確な地震の規模がわかるまで「巨大」と表記される[1])。

一方、予想される津波の高さが20 cm未満であるときは津波注意報ではなく「津波予報(若干の海面変動)」が発表される[1]

大津波警報・津波警報・津波注意報[1]
発表基準 予想される津波の高さ
数値での発表 巨大地震(M8超)
大津波警報 10 m<予想高さ 10 m超 巨大
5 m<予想高さ≦10 m 10 m
3 m<予想高さ≦5 m 5 m
津波警報 1 m<予想高さ≦3 m 3 m 高い
津波注意報 0.2 m≦予想高さ≦1 m 1 m (表記しない)

津波警報が発表された場合、警報が発表される津波予報区に近い予報区に津波注意報が発表されていることが多い。津波警報が発表された場合には緊急警報放送が行われるが、津波注意報のみの場合は緊急警報放送は行われない。なお、津波注意報解除後に海面変動が継続すると予想される場合にも「津波予報(若干の海面変動)」が発表される[1]

東北地方太平洋沖地震後の津波警報・津波注意報の改善が行われた2013年3月7日改正まで、津波注意報は高い所で0.5 mの津波が予想される場合に発表されていた。なお、2013年3月7日改正までは津波警報も「津波」と「大津波」に区分され、津波警報(津波)は1 mまたは2 m、津波警報(大津波)は3 m以上の津波が予想される場合に発表されていた。このうち「津波警報(大津波)」は一般には「大津波警報」と呼称されていたが、分かりにくいとの指摘もあり、2013年3月7日から気象庁も正式名称として「大津波警報」に変更することとなった[2][1]

なお、防災行政上、「発表」と「発令」は明確に区別されており、気象庁は津波警報や津波注意報を「発表」している[3][4]。内閣府の避難勧告等に関するガイドラインでも、気象庁の津波警報等については「発表」、それに基づく市町村からの避難指示については「発令」としている[5]

発表までの流れ[ソースを編集]

気象庁が津波注意報(警報も含め)を発表するまでの流れは、まず地震が発生した場合には震源要素(震源地点・深さ・規模)を解析する。その後、シミュレーションソフトを使用して津波の発生の有無などを再現し、高いところで20センチ以上[6]50センチ程度の津波観測が予想される場合には津波予報区[7]と共に注意報として発表する。

なお、シミュレーションソフトでは断層ずれの際のずれ角度については45度と定義している。これは45度以上(急な角度)だと過大評価となり地震で大きな津波が来襲する危険があると判断され、逆にそれ以下(緩やかな角度)だと過小評価となりほとんどの地震で注意報発表レベル以下になる可能性があるためである。なお、断層のずれ角度などについては原則として発生後2時間程度で発表されることがある。

以前に沖縄県石垣島近海を震源とする地震があり、その際に警報が発表された事例がある。しかし、結果として津波は微弱なもののみ観測された。これは、横ずれ断層による地震だったことから実際には津波発生の危険性がないものだった。その後、2009年8月にも同域を震源とする地震があり朝と夜にそれぞれ注意報が発表された事例があるがこれも同様に横ずれ断層だったことにより津波が発生しなかった。なお現在の技術では断層の即時解析は不可能であり、結果として沖合で発生する規模の大きなものはどんなものでも「注意報」以上を発表せざるを得ない状況である。

対応[ソースを編集]

気象庁では津波注意報が発表された場合の「とるべき行動」として「海の中にいる人は、ただちに海から上がって、海岸から離れてください」[1]また「津波注意報が解除されるまで海に入ったり海岸に近付いたりしないでください」[1]としている。また、内閣府消防庁・気象庁等の関係省庁では、陸上に浸水するおそれはなく[8]居住区などから避難する必要はないとしている[9]。気象庁の記者会見でも「陸上では避難の必要はないが、海中での作業やレジャー(サーフィン、海水浴、磯釣り)を中止し海から上がり海に近づかないでください」と解説している[10][11][12]

東日本大震災後の検討[ソースを編集]

2011年12月から2012年1月に気象庁が行った意見募集では、自治体からの意見として「津波注意報の位置づけが分かりにくい」と述べられているのに対して、気象庁は「津波注意報では居住区からの避難は不要であることについて十分周知・啓発に努める」、「津波注意報により居住区域で過大な避難行動がとられることは津波警報への危機感を弱める影響があると考える」との見解を示している[13][14]中央防災会議の「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」では「自治体サイドは、防災対応をもう少し緻密につくって、津波注意報では逃げなくてもいいというような広報を考えないといけない」と指摘されている[15]。また、気象庁の地震津波監視課津波予測モデル開発推進官は「津波注意報については少し誤解がある。居住区への避難勧告等ではなく、海に入っている人は海から出る、気をつけてくださいよというアラート」、「津波注意報のたびに避難行動をとると、狼少年的なことにも」と話している[16][17]。2012年7月18日、中央防災会議の津波避難対策検討ワーキンググループが取りまとめた報告で、津波注意報については「海水浴等により海岸保全施設等よりも海側にいる人は、津波注意報でも避難する必要がある」と記載されている[18]。防災白書に掲載の釧路市のハザードマップでは、津波注意報については「海岸、河口及び川岸から速やかに離れてください」と記載されている[19][20][21]。また、大洗町の津波避難誘導マップでは、津波注意報で避難が必要なエリアとして、海水浴場「大洗サンビーチ」に隣接した駐車場が指定されている[22][23]

津波注意報が発表された際に内陸部の小中学校と幼稚園からも高台への避難を行う旨の指針を南あわじ市教育委員会が作成している事例[24]や津波注意報が発表された場合、予め定められた地域[25]に避難勧告を西宮市が発令すると定めている事例[26]、津波注意報相当の高さの津波に対して居住区から避難するよう地震防災を研究している境有紀が住民に呼びかけている事例もある[27][28]。実際に津波注意報が発表されたときの対応の事例としては、2011年3月9日に発表された津波注意報では大船渡市・洋野町・普代村が避難勧告を[29][30][31][32]、2011年7月10日に発表された津波注意報では大槌町や宮城県東松島市で避難指示・その他の各地で避難勧告が発令され、海や河口から離れるだけでなく一部の居住区から避難所や高台への避難も行われた[33][34][35][36]。また、2012年3月14日に発表された津波注意報でも、岩手県大槌町が避難指示、陸前高田市や釜石市など岩手県の5市町村とむつ市・東通村・風間浦村が住民に避難勧告を発令した[37]

沿岸自治体の対応[ソースを編集]

2016年11月に発生した福島県沖の地震で津波警報が出された際には沿岸市町村の対応のばらつきが問題になった[38]。宮城県は2017年10月に津波対策指針を改定して津波注意報以上で避難指示を発令すると指針を定めた[38]。女川町や南三陸町などの地域防災計画では津波警報以上が発表されたときは避難指示等が出されることになっているが、担当者からは津波注意報での避難指示はかえって混乱しないか心配する意見もある[38]。また、市域が広大な石巻市の担当者も、避難は重要だがいろいろな影響があり、避難対象地域の決定には根拠となるデータがないと厳しいとしている[38]。風水害も含めて頻繁に避難指示が出ることで、いざというとき避難につながらないことは避けるべきとの意見もある[38]

2021年3月20日に宮城県沿岸に出された津波注意報でも沿岸の市町の対応は分かれ、9市町が宮城県の津波対策指針に基づき避難指示を発令する一方、石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町は各市町の地域防災計画に沿って注意喚起を行い、東松島市と利府町はそれぞれの判断で避難勧告と注意喚起を実施した[38]

津波フラッグ[ソースを編集]

2020年6月より、津波注意報以上が発令された場合の海水浴場などにおける視覚的な伝達手段として、津波フラッグが制定された。

過去の事例[ソースを編集]

脚注[ソースを編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 平成25年3月7日から津波警報が変わります、気象庁
  2. ^ 「大津波警報」に名称統一 気象庁が改善案”. 日本経済新聞 (2012年1月31日). 2013年1月9日閲覧。
  3. ^ デスク日誌(1/27):発表か発令か”. 河北新報. 2022年3月18日閲覧。
  4. ^ 発令と発表”. 東海テレビ. 2022年3月18日閲覧。
  5. ^ 避難勧告等に関するガイドライン2(発令基準・防災体制編)”. 内閣府(防災担当). p. 42. 2022年3月18日閲覧。
  6. ^ 【防犯・防災・事故の情報】津波警報 | 焼津・藤枝ポータルサイト「しだまちライフ」
  7. ^ 北は北方四島から西は八重山諸島、南は小笠原諸島まで、全国の海岸・湾岸を66分割して網羅した区域
  8. ^ 広報ぼうさい 特集 津波について知ろう、内閣府防災担当、平成22年5月号
  9. ^ 減災啓発ツール みんなで減災 津波への備え、内閣府防災担当
  10. ^ サモア大地震、日本にも津波到達の可能性
  11. ^ 地震後4-5時間は津波の可能性~気象庁
  12. ^ 津波注意報発表の可能性=サモアの地震で-気象庁
  13. ^ 津波警報の発表基準等と情報文のあり方に関する提言について、31頁。気象庁報道発表、平成24年2月7日
  14. ^ いただいたご意見と気象庁の見解、36頁。他、数ヶ所に記載あり。
  15. ^ 中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」(第8回)議事概要について、5頁
  16. ^ NHKR1『私も一言!夕方ニュース』
  17. ^ NHKR1『私も一言!夕方ニュース』2012年2月7日
  18. ^ 中央防災会議 防災対策推進検討会議 津波避難対策検討ワーキンググループ
  19. ^ 大津波警報・津波警報が発表されたときの対応は、居住区が避難の対象に含まれる。
  20. ^ 津波ハザードマップの例(防災白書)、内閣府防災担当
  21. ^ 500年間隔地震 津波ハザードマップ(釧路地区中部・東部) (PDF) 、釧路市
  22. ^ 大津波警報・津波警報・津波注意報の3種類の避難エリアが指定されている。
  23. ^ 大洗町海水浴場の津波避難対策について (PDF) 、大洗町
  24. ^ 津波 学校の責任で避難…兵庫
  25. ^ 大津波警報・津波警報が発表された場合に避難勧告もしくは指示が発表される地域と同じ。
  26. ^ 「もし災害に見舞われたら」津波災害編 ①発令者及び避難勧告・指示の発令基準
  27. ^ サモア諸島沖の地震による津波注意報に対する対応
  28. ^ 静岡県は耐震先進県?
  29. ^ 三陸沖地震・津波注意報の発表に伴う対応状況、1頁。
  30. ^ 2漁港拠点に整備 老朽化堤防補強図る
  31. ^ 宮城県北部で震度5弱
  32. ^ 津波注意報の発表で避難所に避難した住民たち
  33. ^ 【報告】津波注意報発表から解除までの現地及びみえの動き
  34. ^ 被災地に震災後初の津波 高台避難の住民「恐怖心残る」
  35. ^ 津波注意報に「またか」と不安の声
  36. ^ 岩手、気仙大橋仮橋が開通 津波注意報で避難に利用
  37. ^ 北海道・青森・岩手沿岸の津波注意報解除
  38. ^ a b c d e f 津波注意報で避難指示どうする? 進む高台移転、沿岸市町の対応分かれる”. 河北新報. 2021年3月29日閲覧。

外部リンク[ソースを編集]