正規空母

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正規空母(せいきくうぼ)とは、航空母艦(空母)の一種。一部の例外を除いて、空母として運用される目的で建造されたものを指す。

この用語には複数の解釈があり曖昧に使用されている。また、第二次世界大戦当時と現代でも解釈が異なる。

  1. 第二次世界大戦時の空母について
    1. 空母として完成した艦を正規空母とする分類。当初より空母として設計・建造されたもの(「鳳翔」、「ヨークタウン」など)の他、設計時は他の艦種ながら途中で設計変更し、結果的に空母として完成したもの(「赤城」、「サラトガ」など)も含まれる。旧日本海軍はこれを正規空母の定義とした。
    2. 戦闘機のみならずより大型の雷撃機等も運用できる空母。この定義では飛鷹型が正規空母に含まれる。
    3. 商船などでなく当初より軍艦として建造された艦とする分類。
    4. 建造・改装によらず空母のうち、速度、防御、搭載能力の全てまたはどれかが優れ・戦力において主力であった空母(鳳翔はこの分類では正規空母とは言えなくなる)。
    5. 単に、護衛空母・改造空母に対する反対概念。単に海軍の水上機母艦や輸送空母でない(旧日本陸軍が「正規」の兵器として空母を保有した例-あきつ丸など-はある)空母。
  2. 現代の空母について
    現代においては、建造国が正規空母という分類で建造した艦であっても、STOVL機の運用能力しか持たなければ正規空母ではなく軽空母と分類される。つまり、通常カタパルトもしくはスキージャンプ甲板によってCTOL機を発進させ、アレスティング・ワイヤーによって着艦させられる機能を持つ空母を正規空母と定義することが多い。

メリット・デメリット[編集]

各国の正規空母[編集]

2015年現在この現代の定義に当てはまる空母を持っている国は、以下の4ヶ国のみである。

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

アメリカ海軍は第二次世界大戦中に建造したエセックス級ミッドウェイ級ジェット機を運用するためにアングルド・デッキの増設改修したものを保有していたがこれらは1992年までに全艦が退役し、第二次世界大戦後に当初よりジェット機を艦載機とする前提で建造された通常動力型もフォレスタル級が1998年までに、キティホーク級も2007年までに全艦が退役したため、現在保有する正規空母はすべてが排水量8万トン超の原子力空母となっている。
また、1975年の艦種再編で、それまで正規空母に該当する艦種であった艦隊型空母(Fleet Aircraft Carrier・アメリカ海軍の船体分類記号でCV)、攻撃型空母(Attack Aircraft Carrier・アメリカ海軍の船体分類記号でCVA)、攻撃型原子力空母(Attack Aircraft Carrier, Nuclear・アメリカ海軍の船体分類記号でCVAN)などが多目的空母(Multi purpose Aircraft Carrier・アメリカ海軍の船体分類記号でCVただし原子力船はCVN)に統一された。


フランスの旗 フランス

フランス最初の原子力正規空母「シャルル・ド・ゴール」
フランス海軍の空母「シャルル・ド・ゴール」は原子力潜水艦用の原子炉を転用した機関を搭載する原子力空母で、E-2C早期警戒機ラファールM艦上戦闘機を運用可能な最小サイズともいえる。しかし、飛行甲板の長さが足りないなど就役前から問題になり予定されていた2番艦の建造は中止された。
「シャルル・ド・ゴール」に続く次期空母が計画されていたが、計画は白紙となった。


ロシアの旗 ロシア

スキージャンプ甲板を持つ「アドミラル・クズネツォフ」
ロシア海軍の「アドミラル・クズネツォフ」は基準排水量5万トン超の大型艦であるが建造費用を圧縮するという政治的な理由により蒸気カタパルトを装備せず発艦時はスキージャンプを使用する。また、航空打撃力の不足を補うために巡航ミサイルを始め各種ミサイルが装備されている。
搭載機は空軍の主力戦闘機Su-27の艦上戦闘機型のSu-33でカタパルトを装備しないためSTOBAR機として扱われる。
なおロシアはモントルー条約による制限を避ける政治上の理由で、アドミラル・クズネツォフやキエフ級を「航空母艦」とではなく「航空巡洋艦」と呼んでいる。


ブラジルの旗 ブラジル

サン・パウロ」(手前)と原子力空母「ロナルド・レーガン」(奥)
ブラジル海軍の空母「サン・パウロ」は元フランス空母「フォッシュ」で、カタパルトを装備しCTOL機運用能力を持つが、排水量は第二次世界大戦当時のエセックス級と同大で運用可能な艦載機の重量に厳しい制限がある。
艦載機はアメリカから輸入しているが、80年代以降アメリカはスーパーキャリアと呼ばれる超大型空母しか運用していないため現在アメリカで製造されている艦載機はすべて超大型空母でしか運用不可能な大型・大重量の機体のみであり、それらはサン・パウロでは運用不可能なため後継の新型艦載機を導入することができず、搭載機は旧式機でその能力は現代戦においては疑問が残る。


建造中の正規空母[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

建造中の「ジェラルド・R・フォード」
エンタープライズ」の後継艦として、「ジェラルド・R・フォード」を建造中である。
2015年現在建造中なのは1番艦「ジェラルド・R・フォード」であり2016年就役予定。2015年中に2番艦「ジョン・F・ケネディ」の起工が予定されている。


イギリスの旗 イギリス

進水した「クイーン・エリザベス」
イギリス海軍では1978年に「アーク・ロイヤル」が退役した後、多額の建造費と運用費が掛かる正規空母の運用を諦め、STOVL機の運用能力しか持たない満載排水量2万トンのインヴィンシブル級軽空母を30年近く運用してきたが、インヴィンシブル級の後継として満載排水量6万トンを超えるクイーン・エリザベス級2隻の建造が進められている。
クイーン・エリザベス級の2番艦「プリンス・オブ・ウェールズ」は、電磁式カタパルトを持ちCTOL機のF-35Cを運用できる正規空母として再設計の上、建造が進められ、2019年に「プリンス・オブ・ウェールズ」が就役すると同時に1番艦「クイーン・エリザベス」は予備役に編入される予定だったが、F-35Cの実戦配備が2023年まで遅れる見込みのため、C型からB型に戻されることとなったため今後の動きは不透明である。


インドの旗 インド

進水した「ヴィクラント」
STOVL機のシーハリアーを搭載する軽空母「ヴィラート」を運用してきたインド海軍だが、スキージャンプ甲板を利用するSTOBAR方式でCTOL機を運用する「ヴィクラント」の自国建造を進めており、2010年進水、2012年就役を予定していたが、造船所のインフラが不十分な事や、建造費の高騰などによる建造計画が大幅に遅延。2012年6月、他の船の建造のためドックを空ける必要になり、建造途中でドックより引き出された。2013年8月12日進水。
またロシアに同じくSTOBAR方式の「ヴィクラマーディティヤ」の改装を発注するも工事が遅延を繰り返すし、2013年11月16日にようやく引き渡された[1]


脚注[編集]

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  1. ^ ロシアの声 (2013年11月16日). “空母「ヴィクラマーディティヤ」インドに引き渡し”. 2013年12月1日閲覧。